「書いて、話す」オンライン英会話
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東京都東村山市に緑豊かなキャンパスを有する明法中学・高等学校は、中高一貫の男子校です。教育方針の1つに、国際社会の第一線で活躍できる人間の育成を掲げており、「The English Conversation Wheel (ECW)」という独自に作成した教科書を使用して、他校では見られない革新的な英会話教育(ECWメソッド)を行っています。また、「Global Studies Program (GSP)」という高校1年生の3学期の3ヶ月間を丸々オーストラリアの高校への留学で過ごすというプログラムもあり、国際教育に力を入れています。
今回は、明法中学・高等学校の英会話授業を実際に見学し、明法の英語教育、特に英会話教育について、英語科のトラビス先生と鎌倉先生にお話を伺いました。
西武新宿線久米川駅からバスで10分ほど、広々とした敷地を誇る明法中学・高等学校に到着しました。
今回お世話になる、ネイティブ講師のトラビス先生が校門まで迎えに来てくださいました。穏やかでとても優しい先生です。生徒さんも安心して授業を受けることができそうですね。
見学させていただく授業は、トラビス先生が担当をされている中学一年生の英会話の授業です。
明法中学・高等学校が独自に作成した教科書とワークシートを使用します。ワークシートは、対話の流れがわかりやすく図で示されています。
授業開始です。この授業は、トラビス先生と鎌倉先生の2名で指導にあたられています。まず、トラビス先生と鎌倉先生によるアイスブレークと、授業内容についての説明がありました。今日のテーマは、「5W1H (what, when, where, who, why, how)で週末を語る」です。
まずは、「5W1H」をゲーム形式でおさらいします。全員が立ち上がり、先生がおっしゃった単語が「5W1H」の何にあたるのか、正解できたら座ることができます。たとえば、「Yoyogi Park」なら、「Where」が正解です。みんな競争をするように手を挙げていました。
続いては、会話の始め方のおさらいです。聞かれたら聞き返す! それが会話を成立させるコツのひとつだそうです。
次に、相手を褒めることで会話を発展させます。さらに今回の授業では、週末に何をしているのかを聞いてみます。会話の流れや組み立て方は、トラビス先生が絵を使ってわかりやすく教えてくれます。
ここからいよいよ本日の主役、「5W1H」の登場です。「週末は何しているの?」という会話を、「5W1H」を使って膨らませていきます。どんどん話が発展していきますね。
一つの質問に対して、たくさんの答え方を教えてくれます。また、会話の中で「+1(会話を発展させる言葉)」を入れることも重要だとのことです。この二つが明法中学・高等学校の英語教育のミソということで、後ほどのインタビューで詳しく伺いました。
インプットした後は、アウトプットです。ペアになって、先ほど学んだ会話を実践します。最初はワークシートを見ながら、次はワークシートを見ないで自然に言葉が出てくるように話します。
生徒さんが、みんなの前で練習の成果を見せてくれました。ワークシートを持たずに、英語でコミュニケーションが取れています。そして、しっかりとアイコンタクトをするようにというトラビス先生と鎌倉先生の教えが身についていますね。すごい!
トラビス先生との実践が終わったら、次はスピーチの時間です。自分がどのように週末を過ごすのか、何も見ずに他のみんなに紹介します。英語を本格的に学び始めて1年目の中学1年生が、これほどまで話せるとは驚きました。会話の流れだけを教え、話す内容は自分たちで考えさせること。これが明法の英語教育だそうです。自発的に話せるようになるわけですね。
総まとめの時間です。先ほど聞いたスピーチの内容を、自分の言葉でパートナーに伝えます。今日学ぶテーマから始まって、会話の膨らませ方や答え方など、一つ一つ丁寧に段階を踏んでいるので、最後には全員がスラスラと話せるようになっていました。
トラビス先生: 私たちの英会話授業では、生徒が対話文などを書き、それを丸暗記して会話練習をするということは原則行いません。まずは「会話の流れ」をおさえ、実際に英語を話してみる。これを繰り返します。その過程で、生徒は自然と英語を覚えていきます。自然と覚えたその英語を組み合わせていくことで、柔軟性のある本物の会話力が身につきます。
暗記した文章をそのまま話すと、どうしても不自然で面白みのない会話になってしまい、真に使える会話力が身につきません。そもそも、暗記した文章を思い出しながら話すことと、即興で相手と会話をすることは、全く違う行為です。そのため本物の会話力を育てるには、暗記活動を極力控え、リアルタイムに相手の話に反応しながら話さなければならない活動を取り入れた方が健全だと思います。
トラビス先生: 文法力も含めて英語力の上達は長い目で見ているので、中学1年生では正しい文法で話すことまでは要求していません。優先しているのは、「会話の流れや進め方を理解しているかどうか」です。
会話には導入があり、それから中身を発展させていくということを生徒には意識させています。話題の中身を発展させる際、「5W1H」の中から、生徒は自身が話しやすい要素を選び、それらをつなぎ合わせることで内容を膨らませていきます。
こちらが提示した英文を生徒が読み上げるだけでは、発話内容に意識が向かないため、自発的発話力が育ちません。なので、5W1Hに関する複数の選択肢を与えて、その中から必要な情報を「自ら考えて選んでもらう」ようにしています。
そういう会話訓練をしていると、自然と文法力も育まれます。中1でうまく使うことができなかった文法は、中2になるとうまく使え、中2でうまく使うことができなかった文法も、中3になるとうまく使えるようになります。
「ECW メソッド」は、文法力・語彙力・表現力を向上させてから英会話をするのではなく、英会話を通して文法力・語彙力・表現力を向上させるメソッドです。 もちろん、これは週5時間の総合英語授業での蓄積があってこそできることです。
鎌倉先生: 一般的に、closed question(Are you…? / Do you…? / Can you…?など)で質問に対する答えが一つしかないときは、みんなとても良く返答できますが、実際の会話になったときに、それだけではなかなか会話は発展しません。
ですから、open question(5W1Hを使った質問:例えば、“Where do you go fishing?”)にも上手に対処できるように、生徒たちには「short answer(“Tama River”)」、「medium answer(“at the Tama River”)」、「long answer(“I go fishing at the Tama River”)」による複数の答え方を教えています。
英語教師のいわゆる常識として、「long answer(“I go fishing at the Tama River”)」以外の答えは正解としては受け入れがたいといった潜在意識があります。しかし、実際の会話場面でこのような「5W1H」での質問をされたとき、単語レベルでの回答(short answer)でも会話は成立するので、私たちの授業ではそれを間違いとはしません。
トラビス先生: 実際の会話の中で、フルセンテンスで答える割合はとても低いという調査結果もあります。例えば、「Where do you go fishing?」に対して、「I go fishing at the Tama River.」という回答は文法的に正しいけれども、実際の会話の中ではほとんど使われません。前置詞から後ろの部分だけで回答することの方が多いです。
フルセンテンスでの回答を生徒に強要し続けると、逆に英文法が嫌いになってしまう危険性もあります。それよりも、medium answerで前置詞などの働きに着目させながら、きちんと意味をおさせた上で語法を学ばせた方がよっぽど実用的です。ですので、語法・文法力を育てる観点からも、会話での自然な答え方を非常に大切にしています。
トラビス先生: 第二言語習得で一番大切なのは、会話をすることです。その会話を成立させるのは、「+1」にかかっています。「+1」ができると、会話ができます。「+1」ができなければ、いくら文法力があっても会話をするのが非常に難しいです。
最近はスピーキングに関する教科書の質が上がってきていますが、まだ「+1」に対する意識が足りないと思います。例文なども、「Yes, I do.」で会話が終わってしまっています。本校では、英会話のテキストにしっかりと「+1」が組み込まれているだけではなく、中1から高1の4年間の英会話授業で、毎回必ず「+1」の指導を行っています。
この「+1」は、学年が上がるにつれ段階的に「+2」、または「+3」へと発展していきます。ちなみに、実はこの「+1」の文を言えるようになるには広範な英文法の知識が必要になるので、「ECWでの英会話」を通じて英文法の力も同時に養成することができるのです。つまり、会話をすればするほど、4技能の総合的な英語力を身に付けられる仕組みがECWの特徴と言っても過言ではありません。
鎌倉先生: 教科の方針として行っているわけではありませんが、私は通常の中1英語の授業(週5時間)でも、文法項目の説明以外は基本的に英語で授業を行うようにしています。それによって、「授業は英語を使う実践の場」といった意識を早い段階から生徒に刷り込むことができ、彼らも英語で授業を受けることに次第に慣れてきます。
週1回の英会話の授業だけでは、積極的かつ支障なく英語でコミュニケーションをする力は身につきません。英語でのコミュニケーションは、ある種スポーツや楽器演奏のようなものなので、学習が理論の習得に偏ってしまうと、実践的な会話力はなかなか育成されません。英会話合宿や海外語学研修などの引率をすると、このような「日々のトレーニング(=授業で英語を実際に使うこと)」がいかに大切であるかを痛感させられます。
トラビス先生: 来日当初は、長野県の小学校で週2日、中学校で週3日英語を教えていました。そこで、小学校と中学校の授業の進め方の違いに驚かされました。小学校は様々なアクティビティがあって、児童たちが楽しそうに英語を学んで発話をしているけれど、中学校では生徒がほとんど発言することなく授業を受けていました。
小学校では積極的に英語を話しているのに、なぜ中学校になるとこのようになってしまうのだろうと思いました。中学校での問題点として、スピーキング活動でも文法学習でも発音練習でも、「間違えてはいけない」という強迫観念がクラス内に存在することが問題だと思います。
しっかりとした文法力も発音力も大切だとは思いますが、それらを英語を話す絶対条件にするのは間違っていると思います。発話する機会を犠牲にして、文法の正確さを優先しすぎるのはいけないと思います。英語学習の初段階からでも、生徒が自ら発話する機会を設けて英語を話す楽しさを経験させることが何よりも大切です。
鎌倉先生: TEAPは大学でのアカデミックな学習を英語でできるか否かを図るテストですので、これを中学生の指導に落としてくるのには、現時点では多くの場合飛躍があります。
一方、高校生で、ある程度英語ができる生徒にとっては、TEAPは学習目標にするにはかっこうの試験です。中学生は、GTEC for STUDENTSをレベル別に受験するのがよいかもしれません。
もし、このような4技能試験が大学入試の主軸となり、バックワードデザインで普段の授業を組み立てることができるようになれば、有機性のない3技能に偏った授業は減ってくると思います。授業と評価が連動してこその教育カリキュラムですので、入試や定期考査など、「評価の仕組み」を変えることで、日本の中高での英語授業の風景は大きく変わってくると思います。
トラビス先生: 日本だけでなく、世界中でいまだにスピーキングをどのように評価できるのか、具体的な方法は確立していません。特に中学・高校レベルですと、評価軸に、抽象的な答えしか出てこないのが現状です。もちろんスピーキングという技能も、種類別に細分化することは可能です。例えば「演説」、「ディベート」、「日常会話」などはそれぞれ違う評価方法が必要だと思います。日常会話に関しては、発話分析をすると、このように会話の構造を捉えることができます(下図参照)。
これは、中学三3年生の8分間の英会話を録音し、文字に起こしたものです。全体を、「+1」と「フォローアップクエスチョン(相手の話を掘り下げる質問)」、「あいづち」、「キックバック(相手への質問)」に分けて色づけしていくと、「+1は十分できているけれど、フォローアップクエスチョンは2回しかしていない、あいづちの回数も足りていないので、その2つの点でもう少しがんばりましょう」のように、会話の中で何ができていて何ができていないのか、なぜ会話が続かないのか、といった分析的な評価(フィードバック)ができます。
つまり、これまでは一般的に測ることが難しいと思われてきた会話力を、意外と簡単に測ることができますし、その具体的な評価を基にした会話の指導も行えます。今、直接的に英会話を教えられる時代がきています。
鎌倉先生: 英会話テスト用のルーブリック(評価基準)を独自に作成していています(下図参照)。
生徒にはこのルーブリックを事前に配布していて、最初のあいさつや、ある程度決められている質問を聞くことができているか、質問に答えたか、アイコンタクトは取れていたかなどの発話内容は、細かい項目を作りアナリティカルに評価しています。
一方で文法は最後の評価項目に入っており、「会話の理解に支障をきたすレベルか否か」という具合に総合的な評価を行います。授業内容もこのルーブリックと連動しているので、普段の会話練習でも同じ基準で生徒たちにフィードバックをしています。
トラビス先生: 中3と高1に関しては、会話テストというものはありませんが、授業の中で教師が生徒の会話を聞いて評価をし、成績をつけます。
例えば、会話の展開、話題の発展具合、発話の質と量などを見ています。特に高1になると、生徒のレベルもかなり上がり、会話がより自然なものになります。英会話教師としてそれを観るのはとても楽しいものです。
英会話の授業では、教科書に記載されているちょっと不自然な対話文を避けて、会話の流儀、流れ、進め方を教え、そしてその内容を生徒たちにある程度任せます。そうすることで、少し英語が苦手な生徒でも自然な会話が何十分も続けることができるようになります。中1から高1までの生徒たちの成長ぶりを見て感動して涙ぐんだりもしますね(笑)。
鎌倉先生: そうですね。たとえば、中1の教科書によくある、「What are you doing?」と聞かれて、「I’m playing the piano.」と答える状況はありえません。形式だけにとらわれています。
トラビス先生: 生徒たちの会話に完全な英文を求めすぎると、逆に内容が不自然になってしまうことがあります。言語学習において、教授者が回答でフルセンテンスを求め、それを評価の主軸にすることは、日本だけでなく世界中で当たり前のように行われています。つまり、日本の中高の英語教育で問題になっていることは、実は世界的な「業界全体の問題」なのです。
鎌倉先生: 教師が生徒にフルセンテンスを求めてしまうことと同時に、現在教科書の中にあるトピックが、必ずしも生徒が興味を持っているとは限らないといった問題もあります。教材をデジタル化し、教師が目の前の生徒集団の興味に最も適したトピックを選ぶことができれば、授業がもっと面白くなると思います。教科書は、どうしても内容や形式の標準化をしなければいけないのは十分承知してはいるものの、生徒のモチベーションアップにつながる教材の工夫に日々苦闘しています。
トラビス先生: 2020年に向けて英語教育改革が行われているので、今後日本の中高英語教育は改善されると思います。生徒が自発的に英語を使えるようになる指導の導入により、高校を卒業する頃にはしっかりとした英会話力を有した生徒が数多く出てくると思います。私たち明法の英語科教員も、そのような将来を目指して日々努力をしています。
明法中学・高等学校では、本当に英語を話せるようになってもらうために、革新的な教育方法を取り入れていました。それは、知識としての英語ではなく、コミュニケーションをとるツールとしての英語を教えるということです。英会話の授業では、正しい文法を使って話すことよりも、相手に何かを伝えること、相手の言いたいことを理解することが大切だということを意識させながら授業を行っているそうです。
受験のための英語だけではなく、将来実際に使える英会話力を目指していることがわかります。生徒さんたちもとても楽しそうに授業に参加していて、授業後に自ら先生に質問をしに行く姿も見受けられました。楽しみながら実践的な英語能力を磨くことができる明法中学・高等学校は、英語を学ぶ場として、とても良い環境だと感じました。
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